Advanced K.G.

We Are KWANSEI

ハンズオン・ラーニング・プログラム(HoLP)は、国内で唯一、関西学院大学が実施している教育プログラム。社会に出向き、あらゆるコト・モノ・考えに「触れる」中で、問うべき問いを自分で見つけ、探究することで「考える」力を鍛えます。

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社会で人々と学び合ったHoLPでの経験を糧に、
平和と向き合う一大プロジェクトを推進。

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貞岩 しずく
Sadaiwa Shizuku

関西学院大学 文学部 文化歴史学科 4年生

広島観音高等学校卒業。HoLPの履修をきっかけに、胎内被爆者の証言集を英語に翻訳するプロジェクトを立ち上げて活動中。

異なる視点が新たな考えを生む、HoLPの学びで成長。

貞岩さんが関西学院大学へ入学された経緯を教えてください。

大学案内のパンフレットでHoLPを知ったことが進学のきっかけです。高校3年生の頃、大学の学びについてイメージができず進学を迷っていた私に、高校の先生方がたくさんの大学案内を用意してくれました。そこで見つけたのが、関西学院大学のHoLPです。特に興味を持ったのは、私の出身地である広島県を通して平和について考えるプログラム。地元で通っていた小学校・中学校・高校が、いずれも原爆の被害に遭った学校であったため、ずっと平和学習を受けてきました。その中で、ただ平和について教わるのではなく、自分自身で考えたいと思うように。HoLPでならその思いを叶えられると考えました。

これまでに多くのHoLPの科目を履修されていますが、特に印象に残っている学びを教えてください。

HoLPでは、地域に出て自分で設定したテーマについて探究する社会探究演習や、活動するフィールドから協働する企業・地域、活動内容までチームで自由に設定するハンズオン・アドバンストなどの科目を履修しました。興味深い科目ばかりでしたが、やはり入学前から興味のあった平和に関する学び、「社会探究実習(広島・江田島平和FW)」での経験が印象に残っています。
私はこの実習に3回参加しているのですが、1回目は江田島を訪れ、老人会の方にお話を伺ったり、地元の高校生との合同授業に取り組んだりしました。さらに島内にある品覚寺ほんかくじでは、寺宝の「津久茂帖」を拝読。江田島兵学校の学生たちが、明治時代から終戦までの間における自らの体験や心情を綴ったもので、重みのある言葉の1つひとつに胸を打たれました。また、メンバーたちと夜中まで語り合ったことも貴重な思い出です。平和というテーマ1つをとっても、フェイクニュースから民主主義まで様々な切り口で語る人がいて、自分にはない多様な観点に触れられたことは、大きな刺激になりました。
実習の中で最も印象深かったのは、広島県立呉三津田高校の2年生と合同授業を行った時のことです。大学生が設定したテーマで意見交換をするという形式だったのですが、一人の高校生が「8月6日に黙とうをするけど、それは死者を悼むためだけのものではなくて、これまでヒロシマという都市を作り上げてきた人たちに対して思いを馳せながら、自分たちが勇気をもらう時間だ。」と語ったのです。黙とうをそのように捉えられるのかと驚きました。他にもはっとさせられる意見が多々あり学び合うことの重要性を実感した出来事でした。
また、陸軍の駐屯地があった広島でも、海軍の拠点となっていた呉でもなく、その間に位置する江田島の地で学ぶ意味を見出せたことも、貴重な学びになりました。江田島は平和学習において一般的にはあまり注目されていない場所ですが、ここにも色濃く戦争の歴史は残っています。戦時中に生きた人々の日常を想い、今を生きる私たちと平和との関わりを見つめることで、かつては気づくことのなかった新しい考え方に触れることができたと感じています。

HoLPを履修してきた中でどのようなことを感じましたか。

社会について考える幅が広がっていくのがHoLPの魅力であるということです。今でも心に残っているのが、木本浩一先生がおっしゃった「人は社会をなして生きつつある存在」という言葉。私たちは生まれた時から社会をなす存在であり、社会について考え続ける必要があるのではないかと問いかけられました。社会について考えるというのは、単に既存の課題について検討することではありません。課題の妥当性を疑い、その課題に取り組む必要性を考え、自分で問いを設定することがこれからの社会をなしていくのに欠かせないのだとHoLPを通じて考えるようになりました。
またHoLPでは、メンバー同士がお互いの本名や学年、所属学部を明かさず、クラスネームというHoLP内での名前で呼び合っています。これはフラットに意見を交換し、議論を深めていくために重要なことで、まさに"考える"ことそのものを鍛えるHoLPならではの特徴です。私は4年生なので他のメンバーは後輩がほとんどですが、鋭い意見に教えられることがたくさんあります。HoLPはメンバー同士がお互いに学びながら成長できる場だといえます。

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次世代である私たちが発信することで、平和について考えるきっかけを生み出す。

最近ではHoLPをきっかけに「胎内被爆者の証言集を英語に翻訳し、世界へ発信するプロジェクト」を立ち上げられました。経緯やプログラムの内容を教えてください。

きっかけは2020年度の「社会探究実習(広島・江田島平和FW)」です。コロナ禍によるオンラインでの実施だったため、先生が広島から中継する形でプログラムが進行しました。その中で出会ったのが胎内被爆者の証言集です。第一集と第二集に分かれていた証言集の、片方しか英訳されていなかったことを、当時はあまり気に留めませんでした。証言集のことを思い出したのは実習後、HoLPでの授業の枠を越えて、さらに学びを深められないかと考えていた時です。英訳されていない部分を学生の力で翻訳することで、平和や原爆について今まで関心を持っていなかった人たちが考えるきっかけになればという思いで立ち上げました。
プロジェクトはHoLPのメンバーに声を掛けたことを起点に、人づてに趣旨に賛同する人が集まり拡大。最終的には10大学45名が集まりました。コロナ禍である上に、全国各地にメンバーがいて集まることが難しかったため、活動は主にオンラインで実施。広島や平和に関する知識の有無や英語力を考慮し、ペアやグループを組んで補い合いながら翻訳を進めていくという仕組みや、進捗管理・情報共有を行う体制を整備しました。翻訳の過程で壁となったのが地名、建物名、病名、原爆などに関する専門用語です。他の証言集の英訳や原爆関連の資料館が開催するセミナーを通じて知識を習得。さらに解釈や単語の選び方について議論を重ね、表現を磨いていきました。現在は一通りの翻訳が完了し、英訳のチェックを進めつつ、世界の誰もが無料で読める形での公開を計画しているところです。活動を振り返ると、メンバー一人ひとりが原爆や平和に対して真剣に向き合う翻訳の過程が、何よりも意味のあることだったと感じます。原爆のあまりの悲惨さに、考えたくない、知りたくないと思っている人も多いでしょう。若い世代の私たちがこうした歴史に目を背けず、胎内被爆者の想いを世界に発信することで、世界中で平和について考える人の輪が広がることを願っています。

将来の夢や目標を教えてください。

今後もHoLPで考えてきた平和というテーマに関わり続けたいと考えています。会社を立ち上げることにも興味がありますし、証言集の翻訳について今回のプロジェクトで整備できた仕組みを運用してみたいとも考えています。色々な経験を積んで、最終的には故郷の広島県で平和に関する取り組みに携わっていきたいです。

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最後に関学生へメッセージをお願いします。

大学は単に専門的な知識を学んだり、スキルを身につけたりする場ではありません。「大学での学びとは何か」という部分から考えることが求められているのです。大学で学ぶにあたってまず必要なのが、知識活用の基盤となる考え続ける力だと思います。それを鍛えられるのがHoLPです。自分の考えに向き合い、課題が何であるかを考える。何かのために考えるのではなく、自分で意味を見出していく。なかなか成果は出ませんが、これを繰り返していくと手応えを感じられる瞬間がやって来ます。人に評価されるものをすべてだと考えず、自分の中でこれだと思える手応えを感じられるよう、学びを探究してみてください。