- Episode.4 フィールドスタディ
気候変動と社会 編 - Episode.3 グローバル探究
ーBASIC参加 編 - Episode.2 PBL特別演習001
[福島から原発を考える]受講 編 - Episode.1 海外理工学プログラムB
〜Coral & Forest Study in
Tropical Area〜 編
フィールドスタディ 気候変動と社会
声を上げよう。
道を拓く一歩は
伝えることからはじまる。
追田 星空
関西学院千里国際高等部・2年生
〈追田さんが取り組むSDGs課題〉
■13:気候変動に具体的な対策を
“世界にとって”の大きな問題だった気候変動が、“私にとって”も重要な問題だと気づいた。
地球温暖化は今後どんどん深刻化し、異常気象が世界に大きな影響を与える。そんな話題を、テレビなどで日常的に耳にしますよね。私は持続可能な世界をめざすSDGsに興味があり、気候変動もその課題の一つとして知ってはいたのですが、具体的な知識はありませんでした。そこで、行政機関や民間企業を訪問して気候変動へのさまざまなアプローチを実践的に学べる気候変動フィールドスタディへの参加を決めました。
温暖化が進むと何が起こるのか、私たちが話を伺ったのは、東京の国立環境研究所で気候変動のリスクを研究されている江守正多先生でした。先生はデータを示しながら環境への影響を教えてくださったのですが、地球の平均気温がたった1度上がるだけで洪水や台風、大規模な干ばつなど今よりも激しい異常気象が起こり、世界的に食料が減少したり、海面上昇が起きたりして、多くの生き物は変化に対応できずに絶滅してしまうかもしれないというのです。その未来予想図は、私にとって衝撃的でした。このままでは本当に地球がダメになってしまう。そう思うと、今までどこか他人事のように感じていた気候変動が、自分にも直接関わる、そして世界が一つになって解決に取り組まなければならない大きな問題なのだと実感でき、いても立ってもいられない気持ちになりました。同時に、こんなに危機が迫っているのになぜ解決のための取り組みが進んでいないのだろうと疑問でした。
何度でも話し合うこと。地道な努力を続けてこそ問題を解決できる。
その理由を知るヒントはIKEAにありました。スウェーデン発の家具・生活雑貨ブランドIKEAでは早くから再生可能エネルギーの普及に取り組んでいます。私たちが訪れた鶴浜店をはじめ、IKEAの店舗やオフィスでは、使用する電力の一部を太陽光パネルによって自家発電・自家消費しているのだそうです。また、海洋プラスチックゴミを再利用したバッグやクッションカバーの販売も行っていると教えていただきました。こんな企業がもっと増えたら、私たち生活者も環境に優しい企業のサービスや商品を選ぶことで問題解決に参加することができるでしょう。ですが現状では、私たちは企業の取り組みを知らないために、「環境に優しい」という視点でサービスや商品を選んでいません。そう思っていると、IKEAの方も「環境への取り組みをいかにお客さまや従業員に伝えていくか」が今後の課題なのだと話されました。発信が十分でないためにほかの企業や私たち生活者にその活動が普及せず、世の中全体が盛り上がっていないのだと感じました。
もちろん、ただ伝えればいいという訳ではありません。環境問題の解決に参加してもらう難しさについて新たな気づきを得られたのは、再生可能エネルギーの発電所を開発・運営する株式会社レノバでのことでした。太陽光発電や風力発電は自然の力に頼るため設置場所が重要なのですが、いざ条件の合う場所が見つかっても地域住民に反対されることが少なくありません。発電所を建てるために自然を壊してしまったり、渡り鳥や魚に影響が出る可能性などがその理由。再生可能エネルギー発電所の増設は誰からも歓迎されるものだと考えていたので、意外な事実に驚きました。では、地域住民からの反対をどうクリアするのか。レノバでは一つの発電所を建てるために、地域の方々と約500回もコミュニケーションをとっているのだそうです。環境への悪影響がゼロではないこと、そのためにどのような対策を行うかをきちんと伝え、賛同して協力していただけるまで話し合う。地道な努力の積み重ねで、大きなプロジェクトを動かしているのです。地球のためになる再生可能エネルギーの発電所でさえもこれほど努力しているのだから、どんな取り組みも地道に伝え続ける努力が必要なのだと知りました。
たった一人でも、力がなくても、「人に伝える」という役割を担うことができる。
私は今回のフィールドスタディを終えて、まずは自分の生活に身近な「マイボトルの普及」をテーマに論文を書きながら、SNSで環境に関連した話題を見つけては周囲へ共有することをはじめました。自分が知った事実を伝えることなら高校生の私でもかんたんにできますし、まずは小さなアクションを起こしてみようと考えたからです。
その頃ちょうど、海外で10代の環境活動家が話題になっていました。たった一人でスウェーデン議会の前に座り込み気候変動への対策を訴える彼女の抗議デモは、さまざまなメディアで取り上げられて世界中に広がり、“グローバル気候マーチ”という大きな運動になっていました。声を上げることで環境問題の切実さを訴え、また無関心な人の問題意識を高めるための活動です。“グローバル気候マーチ”が日本でも開催されることを知ったとき、私は迷わず参加を決めました。
ですが心待ちにしていたマーチ当日、私は少しがっかりしました。集まった参加者とメッセージボードや横断幕を持って行進しても、周囲の人は素通りするばかりで耳を傾けようとはしません。さらに、同日に開催された海外のマーチの様子をSNSで見ると、路上を埋め尽くすほどの参加者の真剣な表情が映っていて日本とは全く規模が違います。日本ではまだまだ問題意識、当事者意識が低く、行動している側の発信する力も弱いのだと痛感しました。
私がフィールドスタディを通して学んだのは、伝えることの大切さ、そして伝え続ける努力を怠らないこと。マーチで感じた周囲の意識の希薄さはショックではありましたが、レノバの方が500回伝え続けたように、私も身近なところから伝える努力を続けようと思います。例えば、マイボトルを使って使い捨て容器を減らしたり、自分が学んだ知識を誰かに伝えたり。世界はきっと、かんたんには変わらないでしょう。けれど、一人ひとりが諦めずに伝え続けることがいつか解決の道を拓くのだと信じて、これからも自分にできることを考え、行動を起こしていきたいです。
フィールドスタディ 気候変動と社会
社会課題を解決するために第一線で活躍されている方々へのインタビューを生徒自身が行い、その後8000字の論文にまとめるSGHフィールドスタディ。「気候変動と社会」では夏休み中の3日間を利用して温暖化対策に取り組む企業や研究者、政府機関などを取材します。立場や事業領域の異なるさまざまな企業・機関の方に話を伺うことで、「多角的に物事を捉える視点」「他者とのコミュニケーション力」「問題解決に取り組む姿勢」などのスキルを高めます。