- Episode.4 フィールドスタディ
気候変動と社会 編 - Episode.3 グローバル探究
ーBASIC参加 編 - Episode.2 PBL特別演習001
[福島から原発を考える]受講 編 - Episode.1 海外理工学プログラムB
〜Coral & Forest Study in
Tropical Area〜 編
PBL特別演習001[福島から原発を考える]受講
川をさかのぼり、
海を渡る。
自分の目で真実を見よう。
馬欠場 将太
経済学部・3年生
〈馬欠場さんが取り組むSDGs課題〉
■10:人や国の不平等をなくそう
■11:住み続けられるまちづくりを
今も生々しく残る津波の爪痕。
現地でショックを受けたことが福島問題を考えるきっかけに。
福島って、事故が起こってからもう8年以上経つので、現在ではかなり復興が進んでいると思っていました。でも友だちを誘って現地を訪れてみると、そんなことは全然なくって。随所に痛ましい爪痕が見られました。その現実の厳しさにショックを受けたことが、今回福島の問題について真剣に学んでみようと思ったきっかけです。ハンズオン・ラーニングセンターが開講しているPBL特別演習001は、日本テレビのNEWS ZEROでメインキャスターを務めておられた村尾信尚先生が担当されており、福島について考える実践型授業です。まずは大学で福島県庁の職員の方をはじめ、さまざまな分野の専門家から現在の福島のことやエネルギー問題について学び、それから実際に現地を訪問して問題を自分たちなりに理解し、最後に福島のために自分たちは何をするべきかを考えるという三部構成になっています。僕は授業を受ける前に一度現地を訪れていますが、やっぱり現地に足を運ぶとその度にいろいろな現実が見えてきますね。現地でお会いした高齢者の方に取材してみると、避難指示が解除されても戻ってくるのはお年寄りばかりで、自分自身も子どもや孫をここに住まわせたくないと話されていたのが印象的でした。人体への影響がほとんどないことは科学的に証明されているはずなのに、目に見えない放射線の怖さはいつまでも消えることがない。安心と安全は全く別物なんだとわかりました。
自分で食べてみるという経験が、福島の問題を自分事として考えるきっかけになると気付いた。
大学に戻ってから僕が考えたのは、現地の復興を遅らせているのは、物理的な問題もあるけれど、人の意識の問題の方が実は大きいんじゃないかということでした。例えば、東京電力のホームページを見ると現地はもう安全だと書かれているけれども、難しい言葉が羅列されていて、その根拠がいまひとつ理解できない。こういう伝え方のマズさもあって、「福島に近寄りたくない」「関心さえ持ちたくない」というネガティブな感情をずっと払拭できずにいるのだと思ったんです。そこで僕たちのグループは、その心のバリアを破っていく一つの策として、関学の学食で福島のお米を食べるプロジェクトを企画しました。調べてみると兵庫県は福島のお米の仕入量が少なく、関学生もほとんどの人が福島のお米を食べたことがありません。福島の米農家がこんなに風評被害に苦しんでいるのに、その問題に関心のない人が多いのは接点がないからだろうと想定しました。そこで福島のお米を食べる体験を通して、みんなにも福島の問題を積極的に考えてもらおうと考えたんです。ほとんどのグループは授業内で自分たちの案を発表して終わりですが、僕たちは違いました。村尾先生から「このプロジェクトは実際にやってみたらどうでしょうか」と勧められたこともあり、現実のアクションに落とし込んでいったんです。
とはいえ、これを学校側や福島県側と交渉しながら実現していくことは想像以上に大変でしたね。先生たちが何か手助けしてくれるわけではありませんから、例えばコストの調整も自分たちで行わなければなりません。通常、生協が一括で仕入れているお米はとても安くて、これに比べると福島県から仕入れるお米はどうしても割高になるんです。その超過してしまうコストを誰にどのように負担してもらうかについても頭を捻り、各方面と調整しながら実現への道を切り拓いていきました。このような交渉は、慣れていない自分たちにとって負担が大きかったですし、成し遂げたところで何か報酬が得られるわけでもありません。自然とメンバーはやる気のある一部の仲間だけに絞られていきました。自分自身も、なぜこんなことをやっているんだと思ったときもありましたが、それは福島の人のためというだけでなく、自分のためだと考えるようにしていました。だってこのグローバルな時代に、福島は世界からも注目されているわけです。もしも僕が将来、海外の人から福島の問題について尋ねられたなら、「自分は知らない」なんていう恥ずかしい答えだけはしたくありません。だから自分自身のためにもこの問題に一つの答えを見出したいと考えていました。
テレビや新聞で知ることと、自分の体験から知ることは全く違う。
何が正しいことなのかを、自分自身で見極められる人へ。
そしてついに2019年7月8日〜19日の2週間にわたって、関学の学食で福島県産のお米を食べてもらう企画が実現しました。難しかったコストの問題は、このプロジェクトの特別メニューをみんなで考案し、それに原価に見合った適切な価格をつけることで何とか解決。今回僕たちが使ったお米は「ひとめぼれ」という品種ですが、口当たりが良くて、つやと粘り気のバランスが良いお米なので、その美味しさを生かせるメニューはなんだろうと考えて、お茶漬けとか丼とか8種類のメニューを用意しました。実際に食べてくれた人にアンケートをとってみると概ね好評でしたね。福島県産のお米のイメージが良くなったという意見が半数以上を占めていて、苦労してやった甲斐があったとみんなで喜びました。
ただし、待っていたのは良い結果ばかりでもありません。このプロジェクトは神戸新聞にも掲載され、多くの人に知られたのですが、その結果、福島についての偏見に満ちた意見も一部からはいただきましたし、僕に対して偽善者だという声も寄せられました。それは少なからずショックだったし、この問題はこんなに根深いのかと改めて気付かされもしました。ただ自分はそういうことも全部含めて、今回のことは経験して良かったなと感じています。やっぱりテレビや新聞で知ることと、自分が経験して知ることって、内容は同じように見えても全然違いました。僕は今回、しんどい思いをしたけれども仲間に助けられながら、実際に自分で行動して知ることの大切さがわかり、心ない批判に負けない強さも身につけることができました。それは本当に得難い経験だったと思うんです。村尾先生は授業の中で、「川をさかのぼり、海を渡る」と言われました。それは、現在見ているものだけで判断をせずに、歴史をさかのぼってみなさい、海外にも視野を広げてみなさい。そこから別のモノが見えるかもしれないという言葉です。自分は今後も、恐れることなく行動し、広い視野を獲得して何が本当に正しいのかを自分で判断していける人になりたいと思います。
PBL特別演習001[福島から原発を考える]
日本のみならず世界を震撼させた福島第一原発事故。惨事から8年以上が経過した現在も大きな課題が未解決のまま残されています。本プログラムは福島県でのフィールドワークを実施し、一人ひとりが自分の目で見て、感じる経験を通じて、日本の原発・エネルギー問題について考える授業です。福島県庁職員、福島の起業家やエネルギー問題の専門家など多彩なゲストからのレクチャーを踏まえ、グループで原発問題、福島復興やエネルギー問題に関する調査・研究を行い、最終的にはその成果を政策提言として発表します。