Advanced K.G.

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Episode.1

海外理工学プログラムB
〜Coral & Forest Study in Tropical Area〜

環境保護への第一歩は、
世界の問題を
自分ごととして捉えること

山ノ井 俊宏(理工学部・2年生)

山ノ井 俊宏

〈山ノ井さんが取り組むSDGs課題〉
■14:海の豊かさを守ろう
■15:陸の豊かさも守ろう

地球を汚しているのも、守っているのも、同じ豊かさを求める“人”だと知った。

 初めての海外で、英語に触れながら生物の実験をしてみたい。そんな期待を抱いて、僕はインドネシア・バリ島で行われる海外理工学プログラムに参加しました。その10日間で得たものは、事前には想像もしなかった大切な気づきでした。

 バリ島では、現地の名門ウダヤナ大学の学生とともに生物の発生実験のほか、文化施設見学やフィールドワークなどさまざまなプログラムに参加します。中でも印象的だったのは、海岸でのマリンデブリ(海洋プラスチックゴミ)調査でした。バリ島の海岸には海流に乗って毎日大量のゴミが流れ着き、そのほとんどはインドネシア語以外の言葉が印字された海外のゴミです。視認できるゴミ以外にも、砂浜には砂粒ほどに小さく砕けたプラスチックが無数に混じっていました。このようなゴミは海の環境を汚し、生態系にも影響を与えます。僕たちはどんなゴミがあるのか調査したのですが、毎日拾っても拾いきれないほど膨大な量のゴミが流れ着くため、普段は日が昇らないうちから清掃業者の方や近隣のボランティアの方が集まって清掃されているのだとか。この国の人たちだけの努力では、海岸をキレイにすることはできても、毎日やってくるゴミを止めることはできないでしょう。誰かが豊かな生活を送る一方で、その代償を誰かが払っている。そんな現実を突き付けられ、自分の暮らしも知らない間にどこか遠い国の環境に悪影響を与えているのかもしれないと考えさせられました。

 次いで参加したマングローブ植樹活動では、さらに問題の根深さを目の当たりにしました。バリ島のマングローブ林が伐採によって年々減少していることは事前学習で知っていたものの、資料を読んでも僕はそれほど危機感を感じていませんでした。木炭などの資材として人の生活に必要なら、最低限の伐採は仕方がないだろうし、伐採されても自然増殖によって補えるのではないかと考えたからです。そんな考えが変化したのは、マングローブがもたらすさまざまな恩恵と自然環境の密接な関係について、保護活動に熱心なウダヤナ大学の学生たちから教わったことがきっかけです。マングローブの特徴である根は、ウミヘビや魚、微生物の住処となり、エサを狙って鳥や猿などの動物が訪れ、落ちた葉は堆積して豊かな土壌を育みます。養分をたっぷり含んだぬかるみにはさらに生き物が集まり、木々は酸素を作りながら成長を続ける。マングローブ林の中でさまざまな生命が関わり合い、生き物たちの複雑なサイクルが生まれているのです。僕たち人間にとっても、果実は食べ物や飲み物、洗顔のスクラブとして、葉は現地で薬として利用できるなどの価値があります。また、沿岸部に広がるマングローブ林は、強風や高波、海岸侵食から住宅や農地を守る「自然の防波堤」としての役割も兼ねているのだとか。伐採すれば一時的な収入は得られるかもしれませんが、守り育てれば伐採とは比べ物にならないほどの恩恵をもたらしてくれるのです。なぜ無計画な伐採が進んでいるのだろうと不思議でした。

 目先の利益ばかりを追い求め、生態系が崩れてしまうほど伐採が深刻化している背景には、貧困が関係しているのだと学生たちが教えてくれました。資源が少なく発展途上にあるバリ島では、観光やサービス業など第3次産業発展による活性化が期待されており、貧困層はマングローブ林を伐採して土地を売却しているのだそうです。今日食べる物にも困っている貧困層が、マングローブから受けられる長期的な恩恵よりも、土地を売却して得られる一時的な収入を求めてしまうのは仕方がないことなのかもしれません。恵まれた環境に暮らす人々がいくらマングローブ保護の重要性を訴えても、生活に苦しんでいる人にその声は届かないでしょう。産業を発展させてみんなが豊かに暮らしたいと願っているにもかかわらず、そのための行動がバリ島から豊かさを奪っている。貧困や格差、産業発展が複雑に絡み合った、環境問題の深刻さが見えてきました。

  • ウダヤナ大学の学生とともに行ったウニの発生実験。海水を張ったバケツに複数のウニを入れて受精させ、発生の過程を顕微鏡で観察する。

  • 湿地帯の泥に足を取られながらの植樹活動。マングローブ林は現地学生など大勢のボランティアによって守られている。

学生一人ひとりが問題意識を持って行動している。
自分たちとの温度差を痛感し、意識が変わった。

さまざまな経験ができた10日間、ともに過ごしたウダヤナ大学の学生たちとの交流の中で得た“姿勢”も、僕にとって大切な気づきの一つです。実習中にお互いつたない英語で会話をしていると、彼らはいつも、「これは日本語ではどう発音するの?」と新しい言葉を覚えようと積極的に質問してくれました。自分たちの国について聞かれることはとてもうれしいことでしたが、環境保護について「日本ではどんな課題があるの?」「どんな取り組みをしているの?」と聞かれたとき、僕も仲間たちも何も答えることができなかったのです。それはきっと、今まで日本の問題に対して目をそらしていたからでしょう。彼らは自国の問題にこんなに熱心で意欲的なのに、自分たちはどうだろうか。日本の暮らしと世界のさまざまな問題は地続きで、決して無関係ではないと知った今、自分たちの考えが至らなかったことに気づき、心苦しい気持ちでした。

 また、彼らは環境保護を普段から意識し、取り入れた情報を広く発信することに抵抗がありませんでした。例えば、環境に関するニュースを見ても日本では「SNSでシェアしたら快く思わない人がいるのではないか」「嫌われたり煙たがられたりするのはイヤだ」などと考える人が多いように思いますし、僕自身もそう考えていました。ですが、彼らは自分の意志をはっきりと持ち、躊躇なく新しい情報を発信します。街を歩いていても、環境保護に関する看板が立ち並び、広告ばかりが目立つ日本の風景との差を痛感しました。「誰かに嫌われたくない」などと考えることがすでに、環境問題に対する意識の低さの表れではないか。ウダヤナ大学の学生と過ごすうちに、僕の姿勢も少しずつ前向きに変わっていきました。

  • 現地の浄水施設を見学。日本では薬によって水質検査を行うが、現地では検査のために魚を使っていると知った。

  • 植樹のためにマングローブ林を観察。普段は観光ツアーが行われているが、人の気配に動物たちが集まってしまい、生態系に影響があるのだそう。

問題に向き合い続ける。
物事の本質を掴む力と、自分を曲げない姿勢を武器に。

 今よりも豊かで快適な暮らしをしたい。それはきっと、人が生きていれば当然の願いだと思います。マングローブ林の伐採、海を汚すプラスチックゴミ、僕がバリ島で目にした二つの問題は、どちらも「暮らしを豊かにしたい」という人々の願いから生まれていました。人も環境も豊かな暮らしを続けるには、長期的な視点で環境にとって「何が」「なぜ」有益なのか、また有害なのか、問題の本質を理解することが重要です。僕が森林伐採の事実を知って意見が変わったように、また、自分たちの暮らしと他国の問題が地続きだと気づいたように、本質を理解することで初めて正しいアプローチを考えることができる。そのためにはまず、問題の存在を多くの人に認識してもらうことが欠かせません。バリ島の学生たちから学んだ発信力を日本でも生かし、問題の存在を伝えながら、僕なりの方法で環境問題に向き合い続けたいと思っています。

■参加プログラムをCHECK!

国海外理工学プログラムB

SGUインターナショナルプログラムの一環として、インドネシア・バリ島のウダヤナ大学にて臨海実験を行います。南方海域の海浜生物の生態を通じて生物の多様性と環境保全の重要性について学ぶことを目的とし、ウダヤナ大学の学生との交流や、バリ島独特の自然環境・文化に触れることで、異文化への理解を深めます。