KG RESEARCHERS’ EYES

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感性工学×

多様な心をもつ人間が共生できる豊かな社会のために心を可視化する

profile

工学部
情報工学課程
教授

長田 典子

1983年、京都大学理学部卒業。三菱電機株式会社に入社し、色彩情報処理・感性情報処理に関する計測システムの応用研究に従事。1996年、大阪大学大学院基礎工学研究科博士後期課程修了、博士(工学)取得。2003年より関西学院大学理工学部に着任、2007年より教授。

長田 典子さん

「感性のものさし」で人に寄り添う製品づくりに貢献する

人の五感や感性といった一見あいまいな概念を工学・心理学・統計学を通じて可視化する感性工学が専門です。研究内容を一言で表すと、人の心を測る「感性のものさし」を作ること。心理学実験やアンケート調査、統計学で得た人の感覚に関するデータと、心拍変動や脳波の計測といった生理・脳科学的アプローチによる計測結果を照合して、作り上げていきます。この感性のものさしが役立つ場面の一つに、付加価値をもった製品開発があります。近年では、パナソニックと協力し、温水洗浄便座の使い心地を分析。ユーザーが温水洗浄便座に求める価値をものさしにした結果、5つの好みのタイプに分類できることが明らかになり、それぞれに対応する機能をもつ製品の開発につながりました。

環境によって変容する心の在り方が人間の奥深さを形作る個性を生む

多くの人の感性を調査していると必ず、平均とは異なるデータが出てきます。新たな発見のためには、この差分の中にこそ意味があると捉え、背景を追究することが非常に重要です。こうした個人差をものさしによって可視化することは、課題解決の手がかりを見出すきっかけにもなると考えています。さらに、社会に大きく貢献する「人の心を理解するコンピュータ」の実現にも、この研究が役立つと考えています。近年、人の感情を読み取るセンサ技術や、それを解釈するAIの技術は目覚ましく進歩しました。しかし、これは心に関する情報を理解しているに過ぎません。真にコンピュータが人間を理解するためには心をもつ必要があり、そのためには多くの課題が残っています。最も大きな障壁はコンピュータが身体をもたないことです。心と身体は不可分一体。身体を適切に制御するために学習し、環境に適応するものが「心」であるため、単体では成り立たないと考えられます。また、環境により変容する特性がある心をもつことによって生まれる個性こそが、人間の本質と言えるでしょう。私は、研究を通じてこうした人間の奥深さに触れるたびに、愛おしく感じます。感性を可視化する技術や、人の心を理解するコンピュータは、多様な心をもつ人間が同じ社会で生きる一助になるかもしれません。人が互いを尊重し合う、豊かな人とコンピュータの共生社会の実現に貢献したいと考えています。

比較文化心理学×

心とそれを取り巻くものを分析し、人の幸せとは何かを考える

profile

文学部
総合心理科学科
教授

一言 英文

関西学院大学文学部心理学科、文学研究科心理学専攻出身。博士(心理学)。社団法人や専門学校講師、ミシガン大学での研究活動を経て、2020年4月関西学院大学に着任。2025年4月より現職。専門は比較文化心理学。心と社会環境や文化の関係性を研究している。

一言 英文さん

心は、社会環境や文化と複雑に絡み合うもの。科学的な視点から、その関係性を明らかにする

「幸せかどうか」はどのように決まるのでしょうか。「何を幸せと感じるかは人それぞれ」とよく言われますが、実は私たちが思っているほど、個人の価値観だけで幸せの基準が決まるわけではありません。そこには、私たちが置かれている社会環境や文化が大きく影響しているのです。例えば、感染症が繰り返し流行した歴史をもつ地域では、家族や職場など、自分が属するコミュニティを重視する傾向が見られるというデータがあります。ワクチンのなかった時代、人々にとって最も有効な感染予防手段は「見知らぬ人と接触しないこと」でした。このような行動パターンが何世代にもわたり繰り返される中で、集団主義的な心理傾向が文化として定着し、今なおその名残が社会集団レベルで観察できると考えます。私はこうした社会現象と心のあり方の関係性を研究し、それを将来の人口動態や社会マネジメントに活かすことをめざしています。人々の幸福の基準は、一朝一夕に築かれるものではありません。現代社会は多様化し様々な軋轢を抱えていますが、互いの「幸せのかたち」を科学的に明らかにし、それを尊重し合うことが、平和の実現につながるのではないかと考えています。

かつて人類が夢見た豊かさを実現した今こそ、「普通であること」の幸せに目を向けたい

心理学が大きく発展したのは、20世紀のアメリカ。抑うつなど「心の問題」への対処が研究の中心でした。世界的な大戦によって理不尽な不幸に見舞われた人々がそれを乗り越え、戦後の経済成長でモノが豊かになった一方で、精神の健康や孤独、地域の問題に心理的アプローチが求められ、情報と文化の葛藤が渦巻く今日に至ります。このように、社会にあらわれる課題に応答する形で心理学は発展を遂げました。今後もその役割は重要であり、さらに言えば現代の日本では、ある程度の物質的な満足が得られているにもかかわらず、「生きがいを感じない」といった悩みをもつ人がいるように思います。何か特別なものを追い求めるのではなく、日々の暮らしをひたむきに維持することの中に、幸せを見出す視点が求められているのではないでしょうか。「普通であること」に価値を見出し、その幸福を再評価する時代が来ているように思います。