KG RESEARCHERS’ EYES

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物質工学×平和

争いのない世界をめざし廃熱回生発電の実用化に挑む

profile

工学部
物質工学課程 教授

田中 裕久

1957年大阪府生まれ。1980年、京都工芸繊維大学工芸学部卒業。メーカー勤務や世界放浪を経て、1989年よりダイハツ工業株式会社で新触媒開発に従事。1998年、東京大学大学院工学系研究科工学博士号取得(触媒化学)。2016年、関西学院大学に着任。

田中 裕久さん

身のまわりの廃熱を電気に変換する新技術で化石燃料に依存しない世界を創造する

私の研究室では、「ものは人を幸せにする」という仮説のもと、その証明につながる研究開発を進めています。また100年後の地球は、美しく安全で住みやすい楽園となっていると信じて、「100年の計」という遊び心のある活動をしています。未来の生活を支える技術で、まだこの世界にないものという視点から研究テーマを見直しています。
世界では、希少資源をめぐる争いが繰り返されています。資源に依存しない技術を築く取り組みを進める中で、日本で1年間に捨てられている廃熱が、国内で作られる総電力よりも大きいことを知りました。廃熱の76%は技術的にも経済的にも活用が難しい200℃未満という低い温度です。「廃熱は資源だ」という気づきが、廃熱回生発電の研究をスタートさせた原点です。回生が難しいため捨てていた熱から、暮らしを支える電気を作る研究。希少資源への依存を減らし、その奪い合いから生じる紛争をなくすことが「世界平和」につながると信じています。
廃熱回生発電に用いるのは、特殊な結晶構造をもつセラミックス強誘電体という物質です。130℃まで温めると結晶構造変化を起こすことが知られていましたが、この結晶構造変化を、外部からの電圧によって制御できることがわかってきました。この現象に注目したのが、私たちが挑戦している新たな発電技術の開発。研究を重ねて、室温で発電できる方法、さらに出力を高める方法を見つけました。この技術を磨いていけば、身の回りにある廃熱から電気を作って、電源が必要だったものをコンセントフリーにしたり、電池の交換を要らなくすることができます。世界中に7億人いると言われる電気のない日常生活を送る人たちにも、電気を届けることができればいいなと願っています。

“Mastery for Service”を実践し世界平和実現の一助となる存在へ

関学生は皆、普段から平和の実現に不可欠な“Mastery for Service”の精神を体得していると感じます。100年後の地球をより良い環境にするため、社会に出てもこの精神を忘れず、身の回りのことすべてに関心を持ち、自分で考えることを大切にしていってほしいです。

歴史神学×平和

価値観が多様化し変動する中で平和をいかに捉えるか

profile

神学部 教授

土井 健司

1962年生まれ。関西学院大学神学部、神学研究科を経て、京都大学大学院文学研究科で学ぶ。博士(文学)、博士(神学)。古代キリスト教思想史を研究し、時に現代的視点からも切り込む。著書・翻訳書多数。関西学院大学副学長として、研究推進や社会連携等を担当。

土井 健司さん

歴史の流れの中で変化するものとして現実に即して平和を考える

私の専門は2世紀から5世紀の古代キリスト教思想史。人々が歴史の流れの中でキリスト教をいかに解釈したか、その変遷を明らかにする学問です。歴史研究の観点から見れば、イエスの言葉を除いて絶対的なものがあるわけではありません。平和に関するキリストの教えは、時代・社会ごとに様々に捉えられてきました。例えば、異民族の侵入でローマ帝国が衰亡する5世紀、司教であったアウグスティヌスは「正戦論」を唱えます。蛮族が迫る中、地域の非常事態と自身の社会的責任に迫られ、ギリギリの選択肢として戦闘行為を容認しながらも、敵に対する愛と平和を説くものです。矛盾する考え方のようですが、時代・社会に応じて真剣に平和と向き合った例と言えるでしょう。大切なのは、私たちもまた時代・社会に影響されていること、それを自覚したうえで現実問題としての平和を考えることだと思います。

キリストの誕生と結びついた「人間愛」が現代に通じる平和の視点を生み出した

時代・社会により意味を変えたものとして、「フィランスロピア」すなわち「人間愛」という概念を紹介します。もとは古代ギリシアの言葉です。ただし古代ギリシアでは、その実態はお金や身分のある社会の中心の人々の同胞愛であり、貧しい人や病人など社会の周縁にいた人々は対象外でした。しかし3〜4世紀にこの概念がキリスト教と結びつき、発想の逆転が起こります。どんな立場もみな愛すべき「人間」だと解釈し直されたのです。キリストが貧しい者として生を受けたことが、周縁の人々へのまなざしを開きました。他者との関係の中で自らを定める私たちにとって、目の前の人など誰であれ自分と同じ「人間」であるということは大きな意味をもちます。それは例えば他人を助けるという考えにつながります。この時代にローマ帝国で最初の病院が創られました。「人間愛」により、社会全体の安寧という新たな平和の視点が生まれたと言えます。自分だけでなく他人も大切にするこの考え方は、価値観が多様化し変動する現代において、平和を捉えるヒントになるかもしれません。