関西学院の学びを支える教育者であり、また飽くなき探究心を持ち続ける研究者でもある教授・教員陣の最前線をリポートする。

profile

建築学部 教授

米田 明

YONEDA AKIRA

東京大学工学部建築学科を卒業後、(株)竹中工務店の設計部での勤務を経て、ハーバード大学デザイン大学院(Harvard University Graduate School of Design) 修士課程 (MArch II)を修了。建築設計事務所アーキテクトン設立ののち、東京を拠点とし、住宅を中心に建設、設計に精力的に取り組む。教育者としても活動しており、2004年より京都工芸繊維大学で勤務。2021年より関西学院大学建築学部教授、京都工芸繊維大学名誉教授。建築、デザインの分野において、国内外共に受賞成績多数。

米田 明さん

建築物1つひとつが、街並みを作り出す。数十年先を見据えたデザインで新たなる価値創造を。

少子高齢化や人口減少、環境問題の深刻化、情報技術の進化など、超スピードで変容する現代。社会構造の変化に伴い、私たちの暮らす家や街、都市も目まぐるしく移り変わっています。2021年4月、神戸三田キャンパスに新設された建築学部(関学建築)は、建築を新たな視点から捉え直し、現代社会における課題解決をめざす場所。私自身も、開設当初より教鞭を取っています。
ひとことで「建築」と言っても、建物からインテリア、都市開発など、その分野は多岐にわたります。私は建築家として、建物の設計を行う実務に携わってきました。東京大学の建築学科を卒業後、(株)竹中工務店で勤務したのち、アメリカへ。著名な建築家、都市計画家、造園家を数多く輩出する、ハーバード大学のデザイン大学院に進学しました。建築、都市計画、ランドスケープの3つの分野を組み合わせたカリキュラムを通して、実践的な建築デザインを学んだのち、建築家として日本で独立。30年以上にわたり、東京を拠点に、住宅などの設計に取り組んでいます。
建造物の設計において心がけているのは、様々な条件を洗い出し、バランスを調整しながらデザインすること。建物は、完成したのちも、数十年にわたり残り続け、街並みを形成します。そのため設計の際には、クライアントの要望に応えるのはもとより、周囲の建物との調和を意識するなど、公共に対する配慮が必要となります。さらに地盤や気候など、立地によっても建築に用いる素材や設計条件が変化。完成して終わりではなく、先を見据えた発想が必要です。そうは言っても、無難なデザインでは面白みに欠けてしまう。お客様の声と建築にまつわる外的要因との釣り合いを取りながら、新しい価値を付与するデザインを提案しています。
建物の完成までには、多くの時間と費用が生じます。住宅など、クライアントや案件によっては、一生に一度の買い物となる場合も。加えて、周囲にお住まいの方にとっても、今後、長年にわたって生活の一部となりえます。社会全体の要望に応えることはなかなか難しいですが、数十年先を予測した上で、できる限り多くの人に満足していただけるようなデザインを意識しています。
また、建築の持つ特性上、大きな建造物の場合は同じスケールで試作品を制作できません。そのため、設計はいつも一発勝負。粘土などで模型は制作するものの、建物の内部に入った時の様子や、街並みなどは、データをもとに想像力を膨らませて考えます。配慮すべき事項が多いため、アイデアの精緻化はなかなか一筋縄ではいきません。しかし、個々の要素がうまく噛み合えば、自身の期待以上のものが生み出せる。そこが、建築の面白さだと感じています。

テクノロジー×アート×マネジメントの融合で、新たな視点から建築を紐解く。

建築と同様、幅広い領域を持つ建築学。日本と諸外国とでは、その捉え方が大きく異なります。日本における建築学は実学的な意味合いが強く、大学では工学部に含まれることが一般的です。研究内容も、実際に設計する上での構造や材料、エネルギー効率の良い施工方法など、テクノロジーに分類されるものが中心。一方、アメリカをはじめとした海外では、建築学を人文学として扱います。屋根など、建物の構成部分を1つとっても、現状のデザインが形成されるまでには、歴史や文化、宗教など、様々な社会的要因が関与しています。それらを踏まえ、現在に至るまでの経緯を含めて建築と捉える考え方が主流です。さらに、建築を絵画や彫刻などと同様の芸術作品として扱うことも。研究の際には、アートとしての側面が重視されます。

関学建築の特色は、テクノロジーとアートそしてマネジメントの視点を取り入れた、新たな建築学です。「建てること」にとどまらない、建築と都市の未来創造をめざしており、業界の第一線で活躍する教員が数多く在籍しています。さらに、関西学院は、130年を超える歴史を有しています。神学部と普通学部の2学部制で創立され、建学当初から文系学部が充実している、由緒ある大学だからこそ、人文学と実学、両方の側面から建築学を深く学べるのではないか。私はそう考えています。
グローバル化の流れを受け、国際的に建築設計資格の規格を統一する動きがある昨今。建築の学問領域も、今後さらに広がっていくことが考えられます。国内外を問わず業界で活躍できる素養を培うためには、実学と人文学、それぞれの面から幅広く学びを深めることが肝要だと感じます。
さらに、グローバルな視点に基づく建築の学びは、現場でも大いに活きてきます。日本の建築の特異性は、諸外国と比較することで際立つからです。例えば、国土の約3/4が山地である日本では、長年、山を切り拓いて建てられた木造建築が主流であり、現在も一部の地域では木の文化が根付いています。一方で、ギリシャなど夏期の日差しが厳しい地域では、家の中の温度上昇を抑えるため、光を良く反射する白色を用いた石造りの家屋が中心です。より説得力のあるデザインを生み出すためには、該当地域の建築に加えて、様々な国や地域における建築の成り立ちを理解しておくことが必要なのです。歴史という土壌の上に現在の建築があり、社会の変化に伴い、建築のすがたも変わり続ける。人文学的なアプローチは、建築学において非常に有用だと言えます。

130年の歴史に基づく関学独自のアプローチで、次代のリーダー育成をめざす。

当学部では2021年の開設以降、関西学院の歴史に基づきながら建築学を紐解いています。例えば一貫したコンセプトのもとで、建築と周辺環境の融合をめざす「建築設計演習Ⅲ」の授業では、「関学発祥の地である原田の森にメディアセンターを建てるなら」と仮定し、アイデアを考案。周辺の景観やバリアフリーなど、様々な観点に配慮しながら、図面や模型を組み立てます。最終回には授業の集大成として、専門家による講評会を実施。関西学院のルーツを学ぶ意図も兼ねて、開催地は原田の森ギャラリー。風光明媚な文京地区で、建築自体の評価に加え、周囲の様子やこれまでの歴史も踏まえて、採点を行います。このように、130年の歴史と兵庫の地に根差した学びで、関西学院ならではの視点から建築学を探究しています。

また、進路についての考え方も一般的な建築学部とは異なります。建築学部というと、建築士やインテリアデザイナーなど、建物やプロダクトを扱うプロフェッショナルをめざすイメージがあるかと思いますが、関学建築では、国際社会・地域社会で活躍できる都市計画技術者や、まちづくりにおけるリーダーの育成も図っています。さらに、本学部での学びを通して身につく考え方は、あらゆる職種、業種に応用が可能です。例えば、ユーザー視点に立ち、サービスやプロダクトの本質的な課題・ニーズを発見できるデザイン思考は、ビジネス上の課題を解決する上で重要な考え方だと言えます。建築業界での活躍をめざす人に限らず、「幅広い状況に対応できるデザイン能力を身につけたい」「フィールドワークを通して社会の具体的な課題解決に取り組みたい」など、様々な夢を持った学生が集まる関学建築。新しい建築と都市の学びをもたらす場として、今後も次代のリーダー育成を推進していきます。

「建築設計演習Ⅲ」講評会の様子