SNSの普及によってかつてないチャンスとリスクが私たちを取り巻いている

SNSの普及によってかつてないチャンスとリスクが私たちを取り巻いている

保護者の皆さんの中にも、LINE、Facebook、TwitterなどのSNSを日常的に利用されている方は多いと思います。しかし、SNSの利用が自分やお子様にとってどんなチャンスをもたらし、またどんなリスクをもたらしているのかについて考えてみたことはありますか。今回は社会学部の阿部教授に、社会学の視点から見たSNS社会の光と影について語っていただきました。

新しいつながりの機会が、SNSで出現した。

日本でインターネットが一般的に利用されはじめた1995年以降、ネットを用いたコミュニケーションは量・質ともに飛躍的に変化し、とりわけ2000年代中盤以降にはSNSが爆発的に普及しました。今LINEの利用率はスマホ利用者の8割に達する勢いです。なぜSNSはこんなに急速に私たちの暮らしに浸透したのでしょうか。その理由の一つは、SNSがそれまでのメディアが叶えられなかった、人の根源的欲求に応える力を備えていたからだと考えられています。  
利用されている方は分かるかと思いますが、SNSというのは非常に面白い可能性を持つツールです。さまざまな立場の人が従来の境界を越えて自由に情報を発信できるようになったことで、自分と同じ趣味・関心を持つ無縁の人々とコミュニティを容易に形成することができます。例えば育児に悩む母親同士がお互いを助け合う場や、国籍の異なる人々とコミュニケーションを楽しむ場などに、気軽に参加できるのです。以前はこのようなつながりを持つことは比較的ハードルの高いことでしたから、SNSは「自分と同じ関心を持つ誰かとつながりたい」という強い欲求を持つ人たちにとって願いを叶えるツールであり、積極的に受け入れられていったのです。今家族や知り合いとのやりとりだけにSNSを利用されている方も多いと思いますが、ご自身のネットワークを広げるために積極的に活用すれば、毎日がさらに充実するかもしれません。

気付かないうちに、私たちの周りに広がっていくリスクも。

しかし、SNSは良い面だけでは語れません。一つには個人情報の問題があります。私たちはSNSなどを利用することで、いつどこから、どの機器で何をしたかという情報を企業に提供しています。神経質になりすぎる必要はありませんが、そこには自分の行動を他者に把握されるリスクがあることも知っておかなければなりません。またネット内での話し合いは極論に傾きやすく、結論がまとまりにくいと言われていますが、ここにもSNSがもたらした現代社会の問題点の一端を見ることができます。実はSNSによって、私たちが自分の好きな人や組織とつながり、興味のある情報を選択して受け取れるようになったことは、同時に「興味のないものの排除」にもつながっているのです。従来のテレビや新聞などはパブリックな媒体/場ですから、そこで述べられる意見は一般的に反対派にも十分配慮した主張となっていました。ところがSNS上ではライクマインディッドといって、同じ志向を持つ人たちの集まりの中で意見が述べられるので言いたい放題になりがちです。そしてこのような場で偏った情報を得ていくと、いざ意見が対立する人と話し合う機会を得ても相手を否定するだけの極論に陥りやすいのです。これはちょっと興味深いと思いませんか。現代というのはこんなにも情報が溢れているのに、それゆえに個人が受け取る情報は極めて制限され、人は公平な見方や判断ができなくなっているのです。今後はきっと、「自分がSNSで得た知識は偏っているかもしれない」ことを認識した上で人と意見を交わす作法=リテラシーが必要になってくると思います。

見えないものを見る社会学は、正しい選択を行うために。

このような話を聞いて皆さんは、「SNSって面白い!」と感じますか。それとも「怖いメディアだな」と思うでしょうか。私がここでお伝えしたいのは、SNSにはその両方の面があるということです。大切なのは、どんなチャンスが得られるのか、どんなリスクを負うのかを両方知った上で、自分自身がどのようにSNSを利用するのかというポジションを判断することです。私たちの追究する社会学はこのように社会で見られる事象の背景に、何があるのかを見えるようにする学問です。普段何気なく利用しているSNSにおいても、その背景に何があるのかを知ることで、意識しないままリスクにさらされるのではなく、ちゃんとリスクを理解した上でチャンスを取りに行く積極的な選択が可能になります。皆さんもぜひ普段の生活の中で、背景にあるものを見抜く社会学の視点を意識してみてください。

阿部 潔教授

阿部先生のゼミで学ぶ学生たちは、身につけた社会学の視点で、SNSが勢いづく今の社会をどのように見ているのでしょうか。6人のゼミ生に座談会形式で、SNS社会に対しての関心やゼミの学びを通して得たものなどについて語ってもらいました。

小川 詩乃(3年生)/長岡 千央(3年生)/吉田 大輝(3年生)/北原 史香(3年生)/増田 遼太郎(3年生)/笠井 美来(3年生)

阿部 潔教授

SNSによって、自分たちの行動は、そして社会はどのように変化している?

K.G. 阿部先生にはSNSをはじめとするメディアの変化が社会にどんな影響を及ぼしているかについて語っていただいたのですが、このゼミで学ぶ皆さんはこのテーマについて、どんなことを感じ、考えていますか。
長岡 私が特に注目しているのは、広告の変化です。商品やサービスの良さをどのメディアで伝えると効果的なのかが、社会の変化と共に移り変わっていることが面白いと思います。以前は影響力のあるメディアといえば圧倒的にテレビでしたが、今はYouTubeの方が強い (※解説1)感覚もあります。企業もYouTuberに宣伝を依頼していますし。
笠井 広告以外について考えてみても、SNSの情報が今自分たちの購買行動にかなり影響している実感がありますね。
増田 自分がもし広告主になると仮定したら、今はやっぱりSNSを重視するかな。でもそれも絶対ではなくて、以前「広告文化論」という授業で講師の広告代理店の方が2021年以降の広告の変化は自分たちも予測できないとおっしゃっていました。メディアの変化はそんなにも激しいみたいです。
長岡 今後、どんなふうに広告が変わっていくのかと考えることも面白いですね。
阿部 潔教授
阿部 潔教授
K.G. なるほど。ではなぜ今、人の購買行動を左右するメディアとしてSNSが強くなっているのだと思いますか。
小川 まず大きいのは、接触頻度じゃないでしょうか。テレビを見ようと思ったらその時間に家にいなくちゃいけないけど、SNSはいつでもどこでも見られるので。私はちょっと時間があればTwitterやInstagramを見ていて、もう自分の一部になっている感覚です。
長岡 それからSNSでは基本的に自分の興味のある人たちの情報に絞って見ている (※解説2)ので、特に影響を受けやすいのだと思います。テレビの情報は自分に関係ないものもたくさん流れてくるけど、SNSの情報は自分向けにカスタマイズされているというか。
笠井 友だちやあこがれの人が発信している情報だから好意的に見ているし、みんなが行っているお店やイベントの情報を見ると、興味がなくてもなんとなく自分も行ってみようかなと思っちゃいますね。この「共感しやすさ」がこれまでのメディアとは根本的に違うところではないでしょうか。
吉田 あと別の面から考えると、SNSの情報は発信者が「自分の生活を見てほしい」「自分の考えに同意してほしい」という欲求を叶えるためにやっている (※解説3)という点も特徴的です。そういう人の欲求を満たすメディアだから、参加者が急速に増え、こんなに発達したのかも。
阿部 潔教授
阿部 潔教授
K.G. SNSは単に新しい伝達技術というだけでなく、それまでの情報の発信者と受信者の関係を大きく変えてしまったんですね。
北原 私はSNSなどによってネットの情報が充実したことで、リアルな場の体験価値が高まってきたことにも注目しています。私は野球が好きですが、スマホの配信サービスでいつでもゲームを見られるのに、最近はあえてスタジアムで見たいという気持ちが強いんですよ。選手の姿は画面で見るよりずっと小さくしか見えないのに(笑)。
吉田 それ、わかります。一見、画面で見る方が情報量が多くて贅沢なように見えるけど、実際はスタジアムの雰囲気、そこで食べるもの、行き帰りの電車で起こることも含めて五感で感じるから、その場に行くことの方がリッチで記憶にも残りやすいんですよね。だから人がリアルな体験を発信しているのを見るとうらやましくなったり。
小川 きっとSNSという「日常」のパーソナルメディアの情報が充実したから、「非日常」であるスタジアムという空間メディアの体験価値が相対的に高まったんですね。
阿部 潔教授
阿部 潔教授
K.G. なるほど。対比して考えてみると面白いです。阿部ゼミの皆さんは、こんなふうに一人ひとりが社会で起こっていることを分析的に追究しているんですか。
吉田 このゼミの魅力は、社会に起こっていることに対して一人ひとりが自分で問いを立て、それを自分なりに追究できる点だと思います。
笠井 メディアというとテレビや新聞、雑誌、Webサイトなどを思い浮かべますが、人と情報の間にあるものは全てメディアだというのが先生の考えなので、当ゼミの研究分野は当然幅広くなります。私自身は人の会話=クチコミもメディアだと思い、これに興味を持って調べています。
小川 私は化粧や服装など、人の印象を決定づける“メディア”について研究しています。
北原 私は建築に興味があり、そこから派生して空間をメディアとして学んでいます。
増田 こうやって自分なりの関心分野に問いを立てて学んでいくことで、最初は何も見えていなかったところに、やがて仕組みのようなものが見えてくるところが面白いです。なるほど、こういう構造になっていたのかと分かると、今度はそれがどうあるべきかが見えてきます。
小川 そうですね。社会学を学んでから、あたりまえに見ていたことの中に合理性が見えてきて、自分で考える力がついてきたような気がします。この力は将来に生かせると思います。
吉田 僕は「社会は面白い」という視点を得られたことが、一番の収穫だったと感じています。将来仕事でキツイ思いをしても、社会学の視点があればいつも楽しく働けそうです(笑)。
K.G. 皆さん、ありがとうございました。
解説1

たしかに学生は、テレビよりもYouTubeかも。

でもそれは全ての世代に当てはまるわけじゃない。ネット時代の現実をより詳細に理解する上では、どの年齢層がどのメディアから映像情報を得ているのかという社会全体の分布に目を向けることも大切です。

解説2

SNSはいわば、共感のコミュニケーション。

だからこそマーケティング企業は、そこに狙いを定めて宣伝・広告に力を注ぎます。でもここで考えるべき社会学的な問いは、そのような共感的コミュニケーションが強まることが社会にどんな変化を引き起こすのか、ということです。

解説3

「承認欲求」はSNSの特徴の一つですね。

でもどうして人はネット空間内でことさらに日常の出来事や自分のちょっとした思いや気分を伝え、「いいね!」をもらいたがるのだろう。どうしてネットの外では、それが難しいのかを考えてみると面白いかもしれません。