Advanced K.G.

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Episode.1

誰かの悩みや
課題に耳を傾け、
新たなビジネスを
生み出すことで
社会に喜びを届けたい

中尾 日奈乃

Kwansei Gakuin STARTUP ACADEMY3期生/国際学部・4年生

宮本 真奈 さん

頭で考えるだけでは成功は掴めない。行動することで初めて見えてくる課題がある。

父の仕事の関係で幼い頃からビジネスに触れる機会が多くあった私は、成長するにつれて自然と「将来は経営者になりたい」と考えるようになっていました。STARTUP ACADEMYに参加したのは、将来起業するために必要な知識や経験を、学生時代に身につけるチャンスだと思ったから。ですが、半年間のプログラムは知識を得るだけでなく、「何のために働くのか」という、働く上で最も重要な自分の軸を見つめる機会となりました。

講義は毎回が発見の連続で刺激的でしたが、特に学びが多かったのはやはり実際に事業を運営したときのことです。1クール目は先輩1人、後輩2人とチームを組み、私が留学から帰ってきたばかりだったこともあって、インバウンド向けビジネスを考案しました。旅行で日本を訪れている外国人をターゲットに、書道を体験してもらうワークショップ方式のビジネスです。半紙ではなくうちわを使うことで、日本での書道体験をお土産として持ち帰ってもらえるようにと考えました。講師役を関学の書道部に頼み、実施場所は外国人観光客が多い京都に設定。ターゲットはただ外国人というだけでなく世代や国籍など思いつく限り細分化して設定し、参加人数や売り上げ見込みを何度も計算し直すなど、綿密に計画を立てていきました。ところがワークショップ当日、お客さまがほとんど集まらなかったのです。閑散とした会場を見ながら、私たちはあることを後悔しはじめていました。それは、事前に事業検証を行わなかったこと。本来は実施までに現場でリハーサルを行い、その中で見つかった課題をクリアして事業プランの精度を高めてから本番を迎えます。私たちは、頭で考えるだけで「書道は外国人観光客に人気があるし、これだけ計画を立てていればきっと大丈夫」と過信して、事業検証を行わずに実施当日を迎えてしまったのです。需要があるだろうなどと思い込まず、何が求められているのか、何が足りないのかをもっと検討すべきでした。頭の中でどれだけ考えても、実際に事業を運営して初めて見えてくる課題があるのだと学んだ、手痛い経験でした。

どうして働くのか。経営者に憧れた理由を、初めて意識し、考えるように。

第2・第3クールでは新たなメンバーと、美容室や美容サロンといった個人事業主の方の名刺やチラシを制作する事業に取り組みました。実制作を行うデザイナーは芸大の現役学生で、私たちはその仲介役を務めます。初回の反省を生かし、計画を詰めると同時に事前検証も行いました。実験的に事業を運営してみると、デザイナーによって制作物のクオリティがかなり異なることや、自分たちが顧客から聞いた情報と、デザイナーがデザインを考えるために知りたい情報に差異があることなどさまざまな課題が見えてきました。そこで、一律に設定していた価格をランク別に変更し、注文を受けた際に必要な情報を漏れなく聞くためのヒアリングシートを作成。仲介役として事業を円滑に回せるよう体制を整えました。電話やSNSを利用して営業をかけ、注文をいただくと直接お会いしてヒアリングを行います。事業内容やコンセプト、テーマカラーなどデザインに関する要望を伺いますが、ヒアリングを重ねるうちに、相手の期待を超えた仕事をするためには当事者意識を持つことが重要なのだと感じるようになりました。ただ淡々とヒアリングシートを埋めるのではなく、何に困っているのか、自分たちに何が求められているのか、相手に寄り添うことでより深い答えを聞き出すことができる。すると、デザイナーに質の高い情報を伝えることができ、仕上がりのクオリティや満足度が高まります。また、デザイナーに対しても、学生だからといって低い金額で頼むのではなく、きちんと対価を払いたいと考え、利益は私たちとほぼ折半になるよう設定しました。芸大生の多くは作品を社会に出す機会がなく、才能があっても収益につなげることが難しいそうです。そこで、私たちが仲介役となって仕事を渡し、デザインで対価を得る経験をすることで彼らの成長や自信につながればと考えました。そうした工夫の末、第3クール目には電話営業で3〜4件、LINEを利用して20件ほどの注文をいただき、講義内で最も利益を出したチームに送られるMVPをいただくことができました。

チームでの努力がMVPというかたちで評価されたことはとても嬉しかったのですが、それ以上に多くの注文をいただき経営者の方にお会いできたことは私にとって貴重な経験になりました。デザインに関するお話だけでなく、起業した経緯や仕事に対する思いなどを伺うことができたのです。どの方も「なぜこの仕事をしているのか」といった軸があり、そう考えるに至った人生がある。経営の本や座学では聞くことができない経営者の生の声を聞きながら、「幼い頃から経営者に憧れていたけれど、私にとっての軸とは何なのだろうか」と意識するようになりました。
宮本 真奈 さん
MVPを受賞した際のチームメンバーと。熱量の高いメンバーと出会えたことで、起業には「誰と組むか」も重要なのだと知った。

見えてきた自分の軸。新たな価値を生み出し、誰かの課題を解決すること。

私は起業を選択肢の一つとして考えながら、STARTUP ACADEMYと同時並行で就職活動もスタートしていました。当初めざしていたのは、大きな裁量権を持って働けるイメージのあるベンチャー企業が中心。ですが、自己分析や模擬面接を繰り返し、一方では事業運営を通して自分の軸を考えるうちに、成長途上の企業で自由に働くことよりも、新規事業に取り組むことの方が重要だと思うようになってきました。STARTUP ACADEMYと就職活動の中で、私は「今までになかった価値を生み出すこと」に喜びを感じているのだと気づいたからです。経営者の方と話していると、どんな方でも少なからず悩みや課題を抱えていることがわかります。悩みや課題は、言い換えれば「今までにない価値」の種のようなもの。そこに寄り添って解決策を考えることが自分の喜びであり、働く上での軸ではないかと思えたのです。そして、新規事業こそ今までにない価値を生み出す場。もちろん自ら起業することも方法の一つですが、確かな基盤と歴史のある企業に就職してこそ、より大きな課題を解決し、多くの人に価値を提供できると考えました。結果、イントラプレナー(社内起業家)育成に前向きな企業からの内定をいただくことができました。

起業する人も、しない人も、仕事の基本姿勢を知ることは人生のアドバンテージになる。

起業するには特別な才能がいる。起業するには資金がいる。多くの人が、起業についてこのような認識を持っているのではないでしょうか。少し前までは私もそう考えていました。ですが、いずれも間違った認識だったのだとSTARTUP ACADEMYで学びました。だから私は、プログラムはすでに修了しましたが、在学中にもう一度起業してみようと計画しています。特別な才能がなくても、資金がゼロでも行動力さえあれば起業することはできます。そして、STARTUP ACADEMYは将来起業をめざしていない人にとっても社会に出る上で大きなアドバンテージになると思います。事業内容を考えるとき、何をすれば収益を上げられるかを考えますよね。それはつまり、何をすれば人に喜んでもらえるのか、ということであり、どんな仕事にも通じる基本姿勢。例えば資料一つつくるときにも、何も考えずにつくるのではなく、情報をどうまとめるか、どうすれば見やすくなるかと自分なりに工夫することで、誰かを喜ばせることができる。仕事とは、「自分にしか与えられない喜び」を模索し続け、その結果としてお金をいただくことではないでしょうか。学生時代に起業を経験することによって、社会に出る前に「働くこと」について考え、体感できるのは、とても幸運な機会だと思います。