「社会人の学び」村上 一平(関西学院大学 大学院 文学部 文学研究科文化歴史学専攻/関西学院 同窓会会長/株式会社日清製粉グループ本社 特別顧問)

「一所懸命」と「一生懸命」 どちらも大切に、生涯の学びを

 株式会社日清製粉グループ本社社長を退任後、2012年に再び大学院で学ぶことを決意し、企業人から研究者へと転身を遂げた村上一平さん。社会人として大学で学ぶことについて、お話を聞きました。

 私は1967年に関西学院大学経済学部を卒業しました。大学時代は金融学を学んでいましたが、現在、大学院の文学部で歴史学を研究しています。

 「なぜ、経済学部でなく文学部に?」とよく聞かれます。私は66歳で株式会社日清製粉グループ本社の社長を退任しましたが、そのとき「わが人生を77歳と仮置きすれば、あと約10年は好きなことができる」と考えたのです。そこで、10年というまとまった時間をずっと好きだった歴史の研究に捧げることにしました。本当は中国史をやりたかったんですが、中国語から学ぶと10年では間に合わないので、日本史の中でも自分のこれまでの経験を参考に研究できる「戦後の高度成長期前後」に時代を絞り、「日本の農業政策と地域農業のかかわり」をテーマに研究しています。

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 ゼミには5、6人の学生がいますが、同期はみんな私の孫の世代です。先生も私よりずっと年下。私は歴史の生き証人状態ですね(笑)。謙虚な姿勢で学んでいるつもりですが、知っている時代の話になるとつい、一般的に書かれている史実についても「本当はそうじゃなかった」とか言ってしまうことも(笑)。「先生はさぞかし大変でしょうね」と妻には笑われています。  44年間も企業に勤めていましたので、最初は大学院での研究論文とビジネスでの企画書や報告書のアプローチの仕方が違うことに驚きました。ビジネスでは結論を先に書いて理由を簡潔にまとめるのが一般的ですが、学者の世界では史料の積み重ねで結論にもって行くというまったく逆の考え方です。演繹法と帰納法の違いですね。こういった新しいアプローチを含めた世界を経験できるのも、生涯学習のおもしろさかもしれません。

 現在、フィールドワークで兵庫県養父市の農業について調べているので月1回は養父市を訪れ、書庫にこもって町議会の議事録などを調べています。また、株式会社日清製粉グループ本社の特別顧問や同窓会長としての仕事もさせていただいており、正直、研究と仕事との両立は大変です。「残業をなくそう」という時代、企業で働いているときは深夜まで仕事をすることはありませんでしたが、大学院に入ってからなぜか徹夜でゼミの報告を仕上げたり、新幹線での移動中にも史料整理をしたり(笑)。かなりハードスケジュールです。

 周りの人に「大学院の勉強はしんどくないですか」と聞かれることもありますが、「しんどいけど辛くはない」と答えています。体力的にはしんどいのですが、やはり好きなことを研究するのは楽しいものです。それに、自分には10年しかないと仮置きしているので、いくら忙しいからといって1年休憩するわけにいきません。私にとって博士号は研究のレベルを確認するためのもので、その後は研究者として生きていきたいですね。

 「社会人の学び」という観点から少しお話させていただきますと、現役のみなさんは、まずは「今いる場所でやるべきことを最大限やる」ことが大切だと思います。置かれた場所で与えられた仕事に「一所懸命」取り組む。一方で、一生かけて何かに情熱を注ぐ「一生懸命」も大切です。それは私の場合は文字通り「学び」となりましたが、人によっては「信仰」かもしれませんし、人それぞれなんでもいいと思います。自分の興味のあることをずっと続けること。その姿勢を一生維持していくこと。人生において「一所懸命」と「一生懸命」、国語辞典的には同じ意味ですが私としては、この2つをいつまでももち続けることが大切ではないかと考えています。