研究室から、明日を変える-Professor's eye-

研究室から、明日を変える-Professor's eye-

生命の“希望” iPS細胞。
今、注目される本質的な問題とは?

  みなさんも「iPS細胞」という言葉を聞いたことがあると思います。すべての細胞へと変化することができる特性をもつ細胞のことで、さまざまな疾患に対する細胞治療への応用が期待されています。私の研究テーマのひとつは「iPS細胞を用いた再生医療・不妊治療」で、たとえばiPS細胞から卵子や精子を作ることによって不妊に悩む人たちに役立てたいと考えています。すでにマウスを用いた実験では、マウスのiPS細胞から卵・精子の作製が成功しており、現在ヒトでも同様の技術開発の競争が世界的に行われています。しかし最近、すべての生物のゲノム(遺伝情報)の配列や遺伝子の働きが簡単に解明できるようになったことで、ヒトのモデルとして研究に長年用いられてきたマウスが、実は哺乳類の中でもかなり特殊な生物ということがわかりました。つまり、マウスで明らかになった事実が哺乳類全般へと一般化できないのではないかという問題が提起されたのです。

 この問題を解決するためには、どの生物が一番ヒトに近いのかを一つひとつ調べていかなければなりません。そうすることで、たとえば進化の過程はヒトとマウス・ヒトとブタを比較するとヒトとマウスの方が遺伝子的に相関関係が高いのに、胚の形においてはヒトとブタの方が似通っている――つまり、ブタを用いて明らかになったことの方が、ヒトに応用しやすいということもわかってきました。私の研究室ではヤモリやウーパールーパーといった爬虫類・両生類もヒトとの比較対象に入れており、それぞれの生物の進化の過程を研究しています。生物が進化の過程でもつようになった「ヒトと異なる部分」あるいは「ヒトと共通する部分」を明らかにすることで、その生物を用いた研究成果がどこまでヒトに応用できるかや、そもそも何がiPS細胞の変化の起因になっているのかがわかるはずです。

 研究を進めるうちに、最近、生物の進化についてさらに興味深い事実がわかってきました。進化というのは生物の中に新しい遺伝子が出現することによって起きるのではなく、既存の遺伝子の“使い回し(転用)”が大きな原動力となっています。たとえば新しい臓器をつくる遺伝子が突然出現するのではなく、手を作るために使っていた遺伝子が何らかの原因で別のところへ使い回されることによって新しい臓器が生まれ、その生物が進化していく…というようなイメージですね。その中で私の研究室では、もともと運動神経で使われていた遺伝子が、初期胚(受精後1~3日目)で転用されることを見つけました。現在は、その転用がさまざまな生物の進化にどのような影響を与えたのかについて研究しています。

研究室には実験に使用する細胞以外に、ヤモリなどの生物も飼育している。各自が責任を持って管理するのが関研究室のルールの一つ。

今日の研究は、明日を変える「種」かもしれない。

 このように生物の進化の仕組みを根本的に解き明かしていくことによって、iPS細胞のヒトへの応用のみならず、予想もしなかったさまざまなことがわかってきます。それは一つの生命体に関するほんの小さな発見であったり、地球の過去を紐解き未来を予測できるほど大きな発見であったり。ただどの研究においても、実験を組み合わせ、結果から「こうかもしれない」と空想して仮説を立て、その一端を説明しうる実験を何度も行う…そのように答えのないものを解き明かしていくことは本当にわくわくします。

 正直、私の研究自体が社会にどのような影響を与えるかはわかりません。しかしこの好奇心が、ダーウィンの時代から今日までつながってきた「生命」の研究を前へと進め、やがて未来の研究の種となるかもしれません。私は研究者の一人として、未来をつむぐ研究を積み重ねていきたいです。

HOW ABOUT[SEKI LABO.]

“個”が互いに刺激され、新しいアイデアが生まれている。

 私の研究室ではディスカッション・実験・発表を何度も行うことによって、学生たちに論理的な思考とプレゼンテーション能力ならびに研究者としての倫理観を身につけてほしいと考えています。たとえばディスカッションにおいて、私は学生に答えは示しません。情報だけ与え、一人ひとりに考えさせ、そして徹底的にメンバーで話し合ってもらいます。本研究室には良い意味で変わった学生が多く、予想もしなかったさまざまな意見が出ることで、新しい実験アイデアが生まれてくることも。あらゆる生物にも言えることですが、“個”の力の大きさは計り知れないものです。この研究室には、未来へのさまざまな可能性がありますね。

STUDENT'S VOICE

生徒

杉山昂太(M1)/金山湧貴(4年生)/本山文恵(4年生)/梶原賢太郎(4年生)

 私たちはiPS細胞についての研究を行っています。実験は一回ではうまく結果が出ないことが多く、つねにトライアンドエラーです。特に、何日もかけて実験していると、「本当に結果が出るのだろうか」と不安になりますね。ですが仲間や先生と議論し合うことで新たな方向性が見出されたり、先生が楽しそうに研究について話されているところを見ると、次への挑戦心が芽生えてきます。大きな夢のある本研究を私たちの手で、前進させていきたいです。